風が海から吹いていた。
僕らが立つ場所をぐらつかせ、大きなエネルギーを運んでくる。
風のベットに寄りかかり、体は笑っていた。
遠くまで電柱がいくつも並んでいる。
人が米粒みたいに小さくて。
潮が満ちてきて、僕らは陸にあがる。
足元から感じる、ひんやりとした海の体温。
地球の呼吸を感じられる海辺。
たくさんの車が帰っていく。
家、家、家へ。
君を待つ人のもとへ。
僕らはいろんな所へ行くけれど、帰りたい場所はやっぱり、どこにもない土地。
どこにでもある場所。
双眼鏡で見ても、顕微鏡を覗いても見えないけれど、目をつむればよく見えるという。
手をつなげばもっと感じられるかな?
僕とぼく、君ときみ、僕と君がいるってとこ。
心はどんな糸よりも強くなり得るという事を、本当はみんな知っている。
風は強く吹いていて、そんな僕らを試すかのようだった。
みんな、君の待つ場所に帰ろう。
僕たちはみんな心の中に住んでいる。
心の中に家を作って、誰かを招き入れて、くだらない事で笑い、
どうでもいい事でけんかして、時間とごめんねで仲直りして、
朝が来るまで眠ろう。
風は夜の間じゅう吹き続けて、空の雲をどこかへ連れて行った。