キーコの世界

ある夜に、急に弟と漫画を描いてみようという話になった。

何年も前の話。

明日に何も予定のない夜の事。

4コマ漫画なら描けそうじゃねぇ?

という会話になって、俺が描いて、弟が編集長になった。

一つのテーブルの上で真っ白い紙に向かい合う。

弟はひたすら出来上がるのを待ちながら、誰もが知ってる漫画を読んでいた。

簡単と思っていたが、いざ描いてみるとなかなかやはり難しいものだ。

大体、起承転結とか、よくわからない。

そもそも絵が上手くないし。

だけどなんとなく一つ目が出来た。

「キーコ」という少年が主人公の漫画だ。

編集長に見せると笑ってくれた。

あっ、そういう落ちなんだ(笑)と。

まあ大層くだらないんだけど何かが出来上がるのは気持ちのいいものだ。

ということで調子にのって2作目も描いた。

しかしこちらはどうも編集長のお眼鏡に敵わない。

悪いとも言わないがやんわりと却下のハンコを押される。

優しい人に断られると本当にダメなんだとわかる‥

しかしそれはどうして自分でも手応えがイマイチなのがわかっていて、すんなり受け入れる。

全く世の漫画家はどれだけ才能と努力の出来る人達なのかと思う。

2作目が出来た。

それはその少年の日常を描いた4コマだ。

8コマで2作というのはいい勘定の仕方だ。

編集長はまた笑ってくれた。

目の前に読者がいるというのはいいなと思った。

基本的な喜びはやはり小さな輪の中にあると思った。

漫画家も最初は自分で描くのが楽しくて、そんでそれをクラスの友達とかに見せて喜んでもらうのが楽しくて、っていう所から始まった人もきっといるだろう。

描いてるうちに夜が更けていった。

しかし不思議なもので描いてるうちに、主人公の、さっき生まれたばかりのキーコというキャラクターに感情移入をしている自分に気がつく。

愛着が湧くというか、親しみを覚えている。

全く人間はその気になれば何にでも愛情を注げるものだ。

薄っぺらい紙の上に描かれた線が意味をなして僕らの頭の中で語りかけてくる。

言葉が、人間が意味を抽象化して伝える道具として用いてるのに対して、絵は意味や形、風景そのまま、何ていうか、原型。

原型を伝えてくる感じがする。

言葉になる前の言葉。

イメージ。

そんな感じがする。

こんな絵でそんな事を言うのも何だか申し訳ないが。

夜は更けて3時になっていた。

編集長と俺は4コマ漫画が出来た事を喜んで眠った。

それから数年経った今、急に、その漫画に歌をつけてみようと思い立った。

とても短い歌が出来た。

ハモろうとしたけど出来なかったから男と女が同じドならドを歌ってるみたいになった。

別にハモってないんだよねだから。

ギターもちょっと失敗したけどまあいいか。

歌も部屋で録音しただけだけどまあいいか。

とにかく、これは昔のあそびの続きをあそんでみた感じ。

そのうち、また編集長と漫画を描けたらいいなと思っている。

しかし6時間もずっと漫画を待ってたのか‥

編集長‥

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