大きな木

うちのばあちゃんが夜に起き出して、ガラッと扉を開けて
「おじいさんは帰って来たかい?」
と言った。
でもじいちゃんはもう10年も前に亡くなっていて、ばあちゃんはまた夢を見たんだろうと思った。
帰ってきてないよ、大丈夫だよ。
もう遅いから休んでね、と言うと、
「ああ、そうかい。じゃ、あとは任したよ」
と言ってまたベットに戻った。
その時のばあちゃんの表情は、本当にじいちゃんが帰って来たみたいに嬉しそうで、
少し興奮していた。
ばあちゃんの心の中では本当にじいちゃんは生き続けてるんだと思った。
それってちょっと凄いし、素敵な事だ。
亡くなった人が、まだ生きてる人の背中を支えているっていうのは多々ある事なんじゃないかなと思った。
神様に愛された人は早くに呼ばれてしまうというけれど、きっと天国で見守ってくれているんだろうな。
じいちゃんはきっと少しだけ早く、天国で将棋を指したい神様に早く呼ばれちゃったんだ。

ばあちゃんはよく庭を眺めている。
時間が止まったみたいに微動だにしない時もある。
顔に刻まれたしわが人生を物語っている。
手や足は、ちょっとぶつけるとすぐあざになってしまう。
肌はびっくりするくらいすべすべだ。
ハンバーガーも食べるし、ビールだって、
「ちょっと飲んでみようか」と言って飲む時もある。
帽子が好きで、たまに靴下を片足に2枚履いてる時もある。
あれ?もう片方がないな、と長島さんみたいな事になってる。
でも穏やかだ。
こないだ94歳になった。
歴史だ。
大きな木だ。
そこにただ存在してくれている事の素晴らしさ。
そんな感じ。

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