今日は風が強くて、春の嵐が来たみたいだ。
桜の木は、弾け始めたポップコーンみたいにぽん、ぽん、と咲き始めている。
小学生達が嬉しそうに道を歩いている。
今日から一年生になる子も、期待と少しの不安と入り混じった気持ちで大きなランドセルを背負ってるのかな。
車の中で眠ってしまった僕は風の音で目が覚めた。
木が揺れて、ごぉーっと風が音を立てて世界を揺らしていた。
この風に桜は目覚めるのかも知れない。
夜の静けさの中で、風とバイクの音だけが賑やかだった。
もしかしたらここは、誰かの夢の中かもしれないと思った。
僕は誤って誰かの夢の中へ足を踏み入れてしまい、誰かの夢を生きてる。
車から見た真夜中の景色があまりに綺麗だったから、そんな錯覚を起こしそうになった。
家へ帰ると、弟が寝ていた。
兄ちゃんの結婚式の為にこっちに帰って来たんだ。
蛍光灯の明かりが眩しそうで、腕を顔に当てて光を遮っていた。
メガネが床に落ちている。黒いシンプルなメガネが。
聞こえるのは、時計の針が時を数える音と、弟の寝息。
それに、春の嵐。
戸惑いつつも、物事は進んで行く。
変化していく周りと、それを眺めている自分。
しかしその循環の中で、僕たちは確実に一つ歳を取っていく。
桜の花びらが舞うのに、自らの姿を重ねながら。
桜の散り際は永遠だ。